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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2077号 判決 1958年7月14日

控訴人 九十九産業株式会社

被控訴人 株式会社広車輌製作所

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し金十七万円及びこれに対する昭和二十九年五月十六日から右支払ずみまで年六分の割合による金額を支払え。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

本判決は、主文第二項にかぎり控訴人において金五万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、主文第一ないし第三項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出、認否、援用は、控訴代理人において当審証人斉藤忠正の証言を援用し、被控訴代理人において「訴外斉藤忠正が控訴人主張の約束手形を振り出したことは知らない」と述べ、当審における証人斉藤忠正の証言及び被控訴会社代表者下地亀松の尋問の結果を援用したほか、いずれも原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

成立に争のない甲第一号証の一、二及び当審証人斉藤忠正の証言によれば、訴外斉藤忠正は被控訴会社東京出張所所長の名義をもつて、昭和二十九年二月五日訴外マルミ産業株式会社に対し金額十九万七千五百円、満期同年五月十五日、振出地及び支払地東京都中央区、支払場所株式会社常盤相互銀行日本橋支店と記載した約束手形一通を振り出し、同訴外会社はこの手形に白地裏書をして、これを控訴人に譲渡したこと、控訴会社は右手形の所持人として右手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたことが認められる。当時被控訴会社が控訴人主張の営業を目的とする商事会社であり、控訴人主張の東京出張所を有し、訴外斉藤忠正が東京出張所に勤務していたことは当事者間に争のないところであつて、成立に争のない甲第三号証、前記斉藤証人の証言、原審における証人北辻義蔵の証言ならびに原審及び当審における被控訴会社代表者下地亀松の各供述を合せ考えると、被控訴会社は発行済株式の総数九万株(一株五十円)資本金四百五十万円の株式会社であつて、大阪市に本店を有するほか登記した支店はなく、営業所としては本店のほか昭和二十六年暮東京都中央区日本橋兜町三丁目九番地にある木造二階建建坪約十二坪二階約六坪の家屋に東京出張所を設け、常時五人の職員をおき訴外斉藤忠正に所長を命じて同営業所職員の指揮監督に当らしめたものであつて、東京出張所は主として本店工場で製造した小型車輛の販売とこれに伴う集金などの事務を担当したのであるが、このほか小型車輛の部品の購入、小型車輛の修理なども行つていたものであり、そのため中央区にある株式会社三和銀行西八丁堀支店に普通預金の口座を設け、送金、必要経費の支弁、職員の給料の支払などにこれを利用していたことが認められる。従つて、東京出張所は単に機械的に取引を行うにすぎない売店、派出所、出張所と異り、ある範囲において本店から離れて独自に営業活動を決定し、対外的に取引をなしうる組織を有していたものであつて、いわゆる支店というにさまたげなく、斉藤は東京出張所所長の名称を使用して対外的取引に当ることを許されていたものであるから、同人は商法第四十二条に定める表見支配人に当るものということができる。仮りに東京出張所が厳密な意味においてあるいは支店といえないとしても、同条の規定の適用を妨げないものと解する。けだし第三者は支店長その他支店の営業の主任者たるべき名称を附した使用人が、外観上その営業所における一切の取引につき代理権を有するものと考えるのは当然であつて、この第三者の信頼は保護されねばならないから、商法は民法に定める表見代理の規定による第三者の保護のみでは不十分として商法第四十二を規定したものであることは立法の趣旨に照し明らかであるから、同条にいわゆる支店が厳密な意味における支店に該当するかどうかは、さほど重要ではなく、むしろ問題の取引-本件についていえば、約束手形の振出行為-がその営業所の業務に属し、営業の主任者の権限に属すると認められるか、どうかが同条適用の判断の基礎となるものと解すべきであるからである。東京出張所が叙上認定のような営業所であるからには、その所長に約束手形を振り出す権限があるものと控訴会社が考へたのは当然のことと判断されるので、控訴会社において本件手形取得当時いやしくも善意である限り、被控訴会社は右手形振出につき責に任ずべきである。しかして原審における原告(控訴人)会社代表者奥成清次の尋問の結果ならびに証人北辻義蔵植本閑の各証言によれば、控訴会社が訴外マルミ産業株式会社から本件手形を白地裏書によつて譲り受けたとき、控訴会社は訴外斉藤忠正が被控訴会社の支配人でないことを知らなかつたものであり、同人は被控訴会社東京出張所の所長として本件手形の振出につき被控訴会社の代理権あるものと信じていたものであることを認めることができる。そうすると、被控訴会社は本件手形につき支払の責を負うべきものであるから、右手形金の内金十七万円及びこれに対する満期である昭和二十九年五月十五日の翌日から支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める本訴請求は正当として認容すべきである。よつて、これと異る判定をした原判決を取り消し、訴訟費用につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条、仮執行につき同法第百九十六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 田中盈 山岸薫一)

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